岡山大学学術研究院医歯薬学域 地域救急・災害医療学講座 講師 小原隆史

この度、JMSA–Nishisaki Pediatric Critical Care Education in North America Grantの初の受賞者として、2025年9月8日から12日にカナダ・モントリオールで開催された Pediatric Acute Lung Injury and Sepsis Investigators (PALISI) Network Fall Meeting 2025に参加させて頂きました。今回の経験は、小児集中治療の臨床研究に携わる者としての視野を広げ、国際的な繋がりを意識し、本邦における研究の在り方を考えていく上で、貴重な契機となりました。
■ Clinical Research Course (CRC)
初日に参加した Clinical Research Course (CRC) には、多様な職種や背景を持つ38名の若手研究者が集まりました。講師陣は、分野を代表する研究者であり、コース全体を通じて、終始、和やかな雰囲気で進められ、コースでは、研究の意義はもちろん、キャリア形成や研究資金の獲得方法、ライフワークバランスなど、実践的な内容も幅広く取り上げれました。特に印象的であったのは、北米におけるメンターシップの在り方です。日本では、課題(研究ネタ)を与えられて遂行する「一方向型」が一般的ですが、北米では、メンターと関係性がより相互的・協働的であり、本人が真に興味を持つテーマについて時間をかけて進めていき、時には施設を越えて、より専門的なメンターとつながることも推奨されていました。
また、限られた時間で自身の研究や疑問などを的確に伝える練習(pitch)や、効果的なスライド作成・プレゼンテーション方法についても講義がありました。実際、デモ指導を受けた参加者が、本会議ではより洗練された発表を行っており、その教育効果の高さを実感しました。 日本には、このような臨床研究に関する包括的なコースはほとんど行われておらず、本邦の現状に即した形に整えた上で、若手臨床医やコメディカルスタッフに対して、臨床研究に魅力を伝える一助となる可能性を強く感じました。
■ PALISI Network fall meeting 2025
CRC終了後のレセプションでは、PALISI創設にも尽力されたJacques Lacroix教授の記念講演が行われ、その後対面した際、初参加の私に対しても、自身の研究について真剣に耳を傾けて下さる姿勢に、PALISIというコミュニティの大きさと懐の深さを実感しました。
PALISIは、従来参加してきた学会とは形式が大きく異なり、新規研究の紹介や進捗状況の共有に重きが置かれ、ごく限られた結果報告しか行われません。発表後には、活発で建設的な議論が展開され、内容のブラッシュアップや施設間協力の強化が図られていました。重症な小児救急患者のICU管理や遠隔期アウトカムに関する国内多機関研究に取り組んでいる私にとっても、頭部外傷と栄養、Family Centered Careや急性脳症といった親和性が高いテーマも多く取り上げられ、臨床から研究への繋ぎ方に非常に勉強になりました。また、研究者を取り巻く社会的・政治的課題や国際研究の主導について、各国の代表者が率直に経験を語り合うセッションも組まれ、日本では経験しがたい新たな視点を数多く得ることができました。
午後は、PALISIを構成するサブグループごとに、新規研究の提案や進捗状況の確認が行われました。私は PEDAL(大規模データの活用)、POST-PICU(アウトカム)、PREVENT(呼吸管理)などを聴講しました。印象的だったのが、いずれの分野においても膨大な臨床データの解析にAIが応用され、病因検索や診療支援のみならず、急変予測や死亡転帰などの判断を含めた新しいアウトカムに関する議論も活発に行われ、大変刺激を受けました。
■ 今後の展望
PALISI全体を通じて最も印象に残ったのは、参加者の使命感と寛容さです。トップ研究者が多く集まる中、休憩時間にも至る所で建設的な議論が続いており、そこには個人の名誉や成功ではなく、「すべては病める子どもたちのために」という強い使命感が感じられました。また、ひとつの会場でプログラムが進行していくメリットも大きく、新たな出会いから、多角的な視点からアイデアが加わり、研究がその場でブラッシュアップされていく様子を目の当たりにしました。さらに、初参加である私に対しても、笑顔で声をかけて下さり、否定的な態度を取る人はおらず、CRCで練習したpitchを使った拙い英語による説明にも、熱心に耳を傾け、アドバイスや必要に応じて適切な専門家を紹介してくださる姿に寛容さを感じました。また、meetingの中心でNishisaki先生やKawaguchi先生が活躍されている姿を見ることができたこと、米国のPICUで勤務されているKeiko先生やMaki先生とも交流できたこと、Philippe先生のご厚意にてCHU Sainte-Justine病院のPICUを見学できたことも、大きな財産となりました。
小児集中治療分野における本邦の若手臨床医にとって、研究というと、国内向けの症例報告や自施設の後ろ向き研究が中心で、多施設研究や国際研究はどこか「遠い世界」と捉えがちです。しかし、今回のように一歩踏み出すことで、すぐ身近に大きな世界が広がっていることを改めて実感しました。これからは、よりグローバルな視点をもって、自身の臨床研究に取り取り組んでいくとともに、この経験から得た学びを次世代のPICUを担う若手の医療者や研究者に伝えていくことが重要であると感じています。
このような貴重な機会を与えてくださった JMSA–Nishisaki Grant に関わる皆様方に心より御礼申し上げます。今回の経験を糧に、日本および世界の小児集中治療の発展に微力ながらも関わっていくことができたら幸いです。本当にありがとうございました。
